介護と仕事の両立は、多くの人にとって切実な問題です。しかし今の日本では、それが「個人の自助努力」でなんとかすべきこととして扱われがちです。
実際、職場で介護についてオープンに話せる雰囲気はあるでしょうか。現実には、多くの人が悩みを抱えたまま、業務に影響を出さないよう必死にやりくりしているのではないでしょうか。
2030年、6人に1人が“働くケアラー”に
日本総研の試算によると、2030年には45〜49歳の約17.9%、つまり約6人に1人が家族の介護をしていると予測されています。
これはまさに働き盛りの世代。企業の中核を担う人材が、家庭内での介護責任も背負っているという状況です。
しかも「介護離職」を防ぐ取り組みが進められているとはいえ、実際には「離職しないまま、介護と仕事の両立に苦しんでいる人」が急増しています。いわゆる“ビジネスケアラー”と呼ばれる人たちです。
年間9兆円の経済的損失と、議論されない「見えないコスト」
経済産業省の推計では、介護と仕事の両立が困難であることによる経済的損失は、2030年に約9兆円に上るとされています。
この金額には、離職だけでなく、職場でのパフォーマンス低下や、時短勤務による生産性の損失も含まれます。
しかしながら、この「見えないコスト」はあまり議論されていません。多くの企業では「介護は私的な問題」という認識が強く、対策も総務部門の片手間で行われるケースが少なくありません。
パフォーマンスの低下と、相談しにくい職場環境
企業の報告書では、「仕事と介護の両立は従業員の努力によってなされるべきもの」という姿勢が多く見られます。
その結果、介護の悩みを上司や同僚に相談しづらくなり、表面上は“何も問題がない”ように見えてしまいます。これは、介護の実態が表に出にくい大きな原因です。
介護には、突発的な呼び出しや心身の疲労、精神的なストレスがつきものです。それでも「周りに迷惑をかけられない」と抱え込んでしまい、気づけば業務効率が落ちている──そんな状態で働いている人は少なくないはずです。
私自身も経験した「働けてはいるけれど、ベストではない」状態
私自身も、上司や同僚に事情を話し、在宅ワークという比較的柔軟な働き方を選ぶことができたため、なんとか仕事と介護を両立してきました。
けれども、心身の疲労や慢性的な睡眠不足、常に気を張っている状態が続き、仕事に全力を注げていたとは言えませんでした。
実際、報告書でも家族の介護を始めてから「自身のパフォーマンスが低下している」と答えた人は3割を超えていました。
「働けてはいるけれど、ベストな状態ではない」──この状態が、社会全体で見えにくいまま積み重なっている“経済的損失”の正体なのではないでしょうか。
企業ができること、社会が考えるべきこと
このような状況を変えるためには、企業側の意識改革が不可欠です。
介護の悩みを話せる職場環境、柔軟な勤務制度、上司や同僚の理解、そして「介護は誰にでも起こり得ることだ」という認識が求められます。
また、国としても企業の取り組みを後押しする制度設計や支援が重要です。
介護は個人だけの問題ではありません。日本全体の生産性、そして働く人の人生の質に関わる、社会全体で取り組むべき課題なのです。
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